2018年4月14日に開かれたUTalkで、助教の小坂がインドネシアの調査地の食についてお話しさせていただきました。
UTalkのウェブサイトではレポートも紹介されています。
UTalkは、福武ホール(東京大学本郷キャンパス)のカフェで月に1度開かれているトークイベントで、参加者と東京大学の研究者がテーブルを囲み、カフェの気軽な雰囲気で会話できるのが特徴です(実は私も何度も参加しているファンの1人でした)。
今回ゲストとして声をかけていただいて、トークのテーマとしたのは「明るい個食」。私はこれまでのインドネシア・西ジャワ州の都市や農村での調査で、人びとが「個食」をする場面を頻繁に目にしました。一般の家庭では、台所に用意されたご飯やおかずを、食べたい人が食べたいタイミングで、自分で皿にとって食べるというふうにしていて、他の家族が家にいても1人だけで食事をしているというのはごく普通のことでした。子どもから高齢者まで、あたりまえのように個食だったのです。それでも、子どもたちは家族や親類、コミュニティのなかで健やかに成長します。
翻って、日本では「家族全員が集まってテーブルを囲む食卓」が団欒の象徴とされ、理想とする考えが根強く残っています。そのため近年の個食傾向は、子どもの協調性、社会性の欠如につながりかねない、などと問題視されがちです。しかし、インドネシアでの個食を知ったあと、私は「本当は個食そのものが問題なのではなく、食事以外の場で、子どもの協調性や社会性を育む機会が少ないことが問題なのでは?」と考えるようになりました。
また、インドネシアの村の人びとにとって食事とは、空腹を満たし、働くためのエネルギーを得るためのもの。私から見ると、「野菜が足りないのでは?」「炭水化物に偏りすぎでは?」「揚げ物を食べ過ぎじゃない?」などと思う食事が多いのですが、インドネシアの村の人びとの多くは「食事のバランス」という概念がないようです。さらに、体重が増えた、血圧が高い、血糖値が高い、などと気にすることもありません。
そんな村の人びとと話していると、私たち日本人は、「1日350gの野菜を食べないと」「体重をあと5kg減らさなければ」「血圧が上がってきたから塩分を控えるべき」などといった、「こうあらねばならない」という理想にとりつかれているようにも見えてきます。
いったいどちらの生活が幸せなのかな、などど考えてしまいます。
2018年5月 小坂理子