タンザニア・モロゴロに住むマサイの村落調査

タンザニア・モロゴロに住むマサイの村落において、博士課程の愛甲達也さんがフィールドワークを実施しました。


マサイは牧畜民の中ではとりわけ有名な集団で、テレビ番組等で映像を見たことがある方も多いのではないかと思います。マサイはケニアを中心に東アフリカに広く分布して暮らしている集団で、全体では200-300万人程度いるのではないかと推測されています。このうち、大半はケニアに居住していますが、少なくとも数十万人がタンザニアで暮らしています。マサイの暮らしぶりは必ずしも画一的でなく、農耕を多少営む場合もあれば、農耕はせずに牧畜だけで生計を立てる場合もあります。

今回、2025年8月から9月にかけてマサイの村に滞在しました。私が滞在した村はタンザニア・モロゴロ州の州都モロゴロから車で1時間程度行ったところにあります。最大都市ダルエスサラームからモロゴロまで鉄道で2時間程度、そこから1時間で村まで行けることを考えると、非常にアクセスの良い村と言えます。

 

 

村の総人口は現在のところ分かっていません。次回の調査で調べるつもりです。ただし、村民のほとんどがマサイで構成されていることは把握しています。村の中心部には売店が10以上は存在し、マサイもしくはバントゥー系の村民が経営しています。また、かつて世界銀行のプロジェクトにより建設された地下水の汲み上げ設備とそこから各家庭に伸びるパイプがあり、多くの家庭で蛇口を捻れば水が出ます。村の中に市場経済が確実に存在し、家によってはシャワーとトイレが設けられているという意味では、近代的な村かもしれません。

村の全家庭の生業を観察していないので定かではありませんが、おそらく農耕をしている家庭はなく、多くの家庭が牧畜で生計を立てています。家畜を管理する方法は家庭(家長)により異なり、村から場合によっては30km以上も離れた場所に家畜キャンプを設営して保有する牛のほとんどをそこで管理するケースもあります。今回滞在した8-9月はタンザニアでは乾季に相当し、滞在した期間中目立った降水は一度もありませんでした。そのため地面は驚くほど乾いており、牛が食べられるような目立った植物は生えていません。私のホストファミリーは西に30kmほど向かった場所にある、草が比較的生えている場所に家畜キャンプを作り、そこで牛を飼っていました。家庭によっては、家畜キャンプを作らずに穀物のエサを牛に与えていました。

 

放牧から牛たちが帰ってくる。景色と相まって、壮観である。

 

テレビ番組や書物ではマサイが肉・血・牛乳だけで暮らしているような描写がありますが、少なくとも私が滞在した村ではそれは違うようです。乾季だからというのはありますが、朝昼夜3回の食事にほぼ必ず主食が入ります。米、ウガリ、チャパティのどれかであることがほとんどです。米とウガリは材料を買えば家で調理できますが、チャパティは出来合いのものを買ってくることが常です。肉を食べることは頻繁にはなく、週に2回程度開かれるマーケットに行った際にその場で食べたり肉を買って家で調理したりするか、それ以外では儀礼等でしか屠殺しないと思われます。少なくとも、牛を200頭ほど飼っていると思われる我が家で牛を屠殺したことは滞在中一度もありませんでした。乾季で乳量は少ないはずですが、血を飲んだりしないのは驚きでした。代わりに、とにかく牛乳を飲みます。乳量が少ない日は、売店で牛乳を買ってでも飲みます。朝食のチャイに牛乳は入りますし、ウガリに合わせるソースにも牛乳が使われます。夕食も一杯の牛乳がついていることが多いです。そのため、おそらく多い日で1日に1L弱の牛乳を飲んでいると思われます。

ホストファミリーは私がたくさんご飯を食べることを期待しており(?)、お腹いっぱいになって残したあとでも「もっと食え」と言ってくれます(少なくとも気にかけてもらっている証拠なのでありがたいことです)。そのため、彼らと同じように私も大量の牛乳を飲むことになります。そして当然下痢を頻発しました。日本でラクトース不耐症に関わる症状は出たことがないのですが、おそらく急に摂取量を増やしたせいで、ラクトースを処理できなかったのだと思います。滞在中、あまり症状は改善しませんでした。一方で、牛乳を減らすと口内炎が出ます。それほどまでに、牛乳が多くの栄養素を含んでおり、それによりマサイの栄養状態が維持されているのだと思います。

ここまで書いた内容が、私が滞在中に見て書いた村に関する簡単な情報です。次回滞在以降は、量的データを得られるような調査を検討しています。具体的には、食事、身体活動、GPS(およびGIS)が関連する調査を検討しています。

マサイは歴史が長く、また昔から注目されているのもあって、先行する研究は多いです。一方で、特定のテーマに着目すれば、分かっていないことも多くあります。例えば、マサイが食事や栄養を家庭内の構成員間でどのように分配しているかについてはほとんど研究がありません。マサイが広範な地域に分布しているのもあり、ケニアに比べればタンザニア・マサイの研究は少ないです。

少なくとも私が観察した限り、父親と子供とでは摂取しているカロリー・栄養素・栄養素バランス等に大きな違いがあるように見受けられます。言葉もままならない中で、まずはマサイの生活と言葉に慣れ、質が担保されている量的データを得られるよう成長していきたいと思います。牛乳を飲み過ぎると下痢になりますが、牛乳は貴重な栄養源であるため、下痢との戦いも続けます。

 

(文責:愛甲達也 D1)