マレーシア・ペラ州 Semai 村落調査(2025 年 9 月)

マレーシア・ペラ州に、博士課程の那賀裕朗さんが滞在し、予備調査を実施しました。


本出張は、マレーシア半島先住民族オラン・アスリの生活文化とコミュニティ構造を理解するための予備的調査として、2025 年 9 月に実施させていただきました。協働研究者の紹介により、オラン・アスリ出身の人類学者である Dr. Juli(以下、Juli 氏)にご協力いただき、同氏の帰郷に同行する形で現地での観察機会を得ることができました。調査地はクアラ・ルンプール(KL)から車で北へ約 2 時間の距離に位置するペラ州の Semai の村落で、KL のような都市的連続性は見られず、主要幹線道路沿いに小規模商業地区や集落が点在し、その間に農地と森林が広がっていました。

 

ペラ(Perak)州の位置(Google mapより)

 

村落は広大なアブラヤシ・プランテーションの内部に位置しており、周辺には複数の企業が参入していることを確認いたしました。具体的には、国家主導の開発事業として始まり後に民営化された FELDA、中華系資本による Lima Bras Estate、そしてデンマーク資本の United Plantations Berhad と日本の Fuji Oil Holdings による合弁企業 UniFuji が挙げられます。村落住民の中にはこれらの企業で働く方々が多く、地域経済がプランテーション産業に大きく依存していることがうかがえました。

 

プランテーションでアブラヤシを運ぶ労働者

 

村落は約 50 世帯、人口はおよそ 300 名で、住民の多くは orang semai のルーツを持つ方々 でした。子どもたちは近隣の公立学校に通学しており、マレー語を中心に英語も日常的に使用されていました。私が住民の方々とお話しさせていただく際にも、マレー語に加えて英語で補助的に会話してくださる場面が見られ、教育水準の高さと外部社会との接触の強さを感じました。

訪問時には、翌日の行事に向けた準備が村の集会所で進められており、住民の皆さんが共同で食事を作っておられました。焼きビーフンは具材が豊富で、食材の選択幅から一定の生活的余裕がうかがえました。また、Sirap Bandung(バラ香料を使った甘味飲料)をご提供いただき、地域の嗜好文化に触れる貴重な経験となりました。宴席では世代を超えた交流が自然に行われており、住民間の相互扶助的な関係が非常に強く、コミュニティを形づくる基盤として重要な役割を果たしていることを実感いたしました。

 

Sirap Bandung マレー人の飲み物

 

夕食後に村内を散策していたところ、若者から kura-kura がいるかと尋ねられ、その後に提供された料理をいただいたのですが、後にそれがカメ(種不明)であることを知りました。村落では伝統的に野生動物を食材として利用する文化が一定程度残っており、今回の料理もその一端であると理解いたしました。個人的にはたいへん美味しく、今回の滞在で最も印象に残る出来事のひとつとなりました。

 

カメ(kura-kura)の身を油で炒めたもの、ゼリー状だがコリコリしている部分もあり、コラーゲンが多そう

 

今回 Semai の村落で調査させていただいた経験は、私が主たる調査地としているクランタン州バテッ村との比較においても非常に有益でした。プランテーション産業への依存度、教育や言語環境、生活物資へのアクセス、世代間交流のあり方など、多くの点で両地域は大きく異なっており、同じオラン・アスリであっても歴史的・経済的背景の差異によって生活様式が多様化していることを実感いたしました。今回の予備調査で得られた知見は、今後の本格的な調査を進める上で重要な基盤となると考えております。

 

(文責:那賀裕朗 D1)