ラオス・ウドムサイ県村落調査

ラオス・ウドムサイ県のナムニョン村に、博士課程の木部未帆子さんが滞在し、調査を実施しました。


昨年の夏に引き続き、2023年2月 (乾季) にラオス・ナムニョン村にて調査をすることができました。今回は夏と同様の食事・身体活動調査に加え、味覚検査と食べ物の選択動機に関するインタビュー調査を実施しました。

■食事・身体活動調査

この時期の主な生業活動は、サトウキビの収穫でした (中国企業との契約栽培)。朝2時 (!) に起床、もち米を炊き朝食・昼食のおかず準備と身支度をして出発、3時半ごろからヘッドライトをつけて作業を開始していました。食事は、野生動植物をとりに行く時間がないため、栽培した菜の花と白菜を食べることが多かったです。村の小売店で購入できる魚の缶詰やインスタント麵を食べることもありました。労働力に余裕がある世帯 (≒おじいさん・おばあさんが同居している世帯) では、小魚や苦い竹の子など、入手に時間がかかる食べ物も食べることができました。サトウキビ畑では、複数の世帯で集まっておかずをシェアします。そのおかげで、おかずのバリエーションが少し増え、食事内容の世帯間差がやや緩和されているように感じました。

サトウキビの収穫は、トラックを満タンにするまで続きます。作業が終わるのは大体17時半から18時ごろ。その後帰宅して水浴びをし、夕食をとり、21時ごろに就寝です。このような1日を10日間繰り返し、1日お休みです。お休みといってもサトウキビの収穫がお休みなだけで、もう一つの換金作物・タバコの畑での作業があります。

あまりにもハードな生活ですが、村の人に聞くと「お金がないから仕方がない」とのこと……。何ともやるせない気持ちで調査をしていました。換金作物の栽培によって野生動植物をとりに行く時間がなくなり、栽培植物と市販食品に頼った食事になる。結果として、現金への依存度がさらに上がる、というまさに現金経済化の始まりに立ち会った気がします。

サトウキビの収穫は未明からスタート。ヘッドライトが必需品です。

収穫したサトウキビをトラックに積み込んでいます。15本ずつ1束になっています。重い!

■味覚検査・食べ物の選択動機に関するインタビュー調査

私の研究関心の一つは、「なぜナムニョン村の人は苦い植物を食べるのか」という点です。苦味というのは毒素のシグナルであり、本能的に忌避される味です。しかしこの村の人々は、苦い植物を日常的に大量に食べています。過去の調査で、これらの植物が栄養摂取の面でも重要である可能性が示唆されました。

私は「村の人の味の感じ方に何か特徴があるのではないか (苦味を感じにくいなど) 」と思い、味覚検査(甘/酸/塩/苦/うま味) を実施することにしました。また、普段食べているものの選択動機をより網羅的に調べるために、The Eating Motivation Survey (TEMS; Renner et al., 2012) という質問紙を用いてインタビュー調査を行いました。

結果はただいま分析中ですが、「村の人は苦いものを好んで食べている」可能性が高そうです。「食べたいものを食べている・嫌いなものは食べない」、「栽培植物は”味が薄い”」といった答えも印象的でした。味覚検査については、「苦甘い」「渋酸っぱい」といった複雑な味を答える人もおり、このような結果をどのように扱うか検討中です。

これらのデータをまとめ、博士論文を執筆する予定です。がんばります!

味覚検査には、Waterless Empirical Taste Test (WETT, Sensonics) というキットを使用しました。細長いプラスチック片の上に味のついたろ紙がついており、それをなめて味を答えてもらいます。この写真のように屋外でも簡単に実施できるのが利点です。

(文責・写真:木部未帆子)